10月18日の日記

2011年10月18日
カメラマンのGさんがアメリカから帰国したらしく、
昨日、突然小洒落た居酒屋に呼び出された。

居酒屋に着くなり、再会の堅い握手。アメリカ仕込の歓迎。
「何年ぶりですかね?」と、オレはきいた。手は握られたままである。
「ワールドカップの日韓大会が終わってすぐに飛び立ったから、もう10年近いんじゃないか」
「へえ、そんなになりますかあ」
手は自然と解かれていた。
オレはGさんの正面の席に座り、生ビールを注文した。
「まだ書いてるの?」正面に向き合うなり、Gさんは単刀直入にオレの一番訊かれたくないことを訊いてきた。
「いや、もう全然。ほら、これ」といってオレは名刺を差し出した。「このとおり、サラリーマンやってます」
「へえ、オマエがサラリーマンになるとはね・・・」
「まあ、いつまでやってるか分からないですけどね、最近飽きてきたし。そうそう、人並みにブログなんかはやってますよ」
「ところでさあ」と、Gさんは話を切った。おそらく今オレが何をやっていようが本当は興味がないのだろう。
「アメリカに飛び立つ前にオマエに預けたアレなんだけど」
「ええ?」
「あのサッカーボール」
「ああ、、、」と言いながら、オレは記憶の糸を手繰りながら、はっとした。

あれはくれたんじゃなかったのか!?


、、、日韓ワールドカップの余韻が覚めやらぬ頃、
オレはなにかの用事でGさんの事務所を訪れた。
このとき、すでにアメリカに飛び立つことは聞いていたはずなので
送別の挨拶を兼ねて訪問していたのかもしれないが、
この辺りの記憶はあまり定かではない。
ただこのときのことで憶えているのは、
直前までGさんが取材で全国を駆け回っていた
ワールドカップについての熱病的な土産話を長々と聞かされたことである。
サッカーに興味のないオレは、途中から辟易したものだが、
この取材行脚により世界に開眼したというGさんの熱弁は
そんなオレをよそに、一向に納まる様子はなかった。
そんな流れのなかであったと思う。
Gさんがオレに一個のサッカーボールを差し出した。
見るとその表面には沢山のサインの寄せ書きがしてある。
ブラジルだか、イタリアだか忘れたが、確かどこかの国の代表チームの寄せ書きだったはずだ。
サッカーファンにとっては垂涎の的かもしれないが、
オレにとっては、力士の化粧回しと同様に
「あげる」と言われても邪魔なので辞退を申し出たくなるものであった。
しかし、それがどういう経緯でそうなったか思い出すことはできない。
Gさんの事務所を出るときには、
袋にも入れず、そのままの丸いボールの状態でオレの脇に抱えられていたのだ。
さて、それからGさんの事務所を出てからである。
長話に付き合わされたせいで、次の予定までの時間も押していたのだろう、
オレは多少速歩きで最寄の駅に向かっていた。
確か雨も降っていたんじゃなかったか?
いずれにしても、とにかく脇にかかえたサッカーボールは、何度もそこからすべり落ちかけ、
急ぐオレの邪魔をした。
そんなときに、オレは自分の左横に長い壁が続いているのを目にした。
中学校の壁である。
オレはその壁沿いにさしかかり、次のようなことを考えた。
中学校のグランドにサッカーボールが一つ転がっているのは自然なことだ。
おそらく誰も一つ増えていることに気がつかないだろう。
また、オレがサッカーボールを持っているのは宝の持ち腐れというもんで、
中学校にあるほうが有効活用してもらえるに違いない、、、。
この考えは、そのときのオレには実に合理的なものに思えた。
オレは中学校のグランドにサッカーボールを投げ入れることにした。
サッカーボールは壁を越えた。
そして、オレはそこから走り去ったのだった、、、。


「あのサッカーボール、どうした?」Gさんは言った。
「ええ、ああ」オレは言葉に窮した。
「ん?」
「いや、だから」
「え?」
「どっか、まあその」
「まあ、いいや、あれは次オレが日本に戻ってくる10年後までオマエに預けておくよ」
「ああ、そうですか、そうですよね。また10年後ですね。」
「でも、考えてみりゃ、なんでオレはサッカー見てアメリカなんかに行こうと思ったのかね」

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